読了

赤い竪琴 (創元推理文庫)

赤い竪琴 (創元推理文庫)

 帯に「永久少女たちへ」と書いてあったので、よくあらすじを読まずに「桜庭一樹青年のための読書クラブとか、三浦しをん秘密の花園みたいなかんじかな。ガーリーでちょっと暗めの話?」と思って読み始めたんだけど、全然違った。主人公の女性が祖母の遺品を整理していたら、とある詩人の日記(他人)を発見、それを詩人の孫に返したところからはじまる淡々とした恋愛小説でした。でもべたべたな恋愛小説というわけでもなく、日常と恋愛のもやもやした間、というかんじか。特に大事件は起こらないけど、雰囲気はわりと好き。
闇の子供たち (幻冬舎文庫)

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

 宮崎あおい出演で映画化したらしい。そういえば、雑誌で見かけて、あー観に行こうかなーと思ってるうちに終わっちゃったんだった。これは貧困に苦しむタイの子供の目線と、それを援助するNPO的な団体の日本人の目を通して描いてあるドキュメンタリーみたいな本。幼児売春とか人身売買、臓器売買が行われている一方で、それを止められない苦しさが前面に出ていて息が苦しくなる。ただこの団体の人たち、どう考えても行動に配慮が足りなさすぎるのが玉にキズ。読んでて「そこ気をつけてー!!」と気が気じゃなくなること請け合いです。
ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

 戦時中、キスカ島に取り残された4頭の軍用犬を起源に、繁殖していった無数の子孫たちが体験する20世紀のお話。個人的には名前がたくさん出てくるのが苦手で(登場人物が少ない本が好きなのです)、この本にもそのポイントではかなり苦しんだんですが、たまに語りかけるように出てくるセリフ「イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?」はかっこいい。犬の大河小説でもあり、世界の歴史でもあり、冒険でもあり、ハードボイルドってかんじもある・・・古川さんという人の本だけど、外国の作家の小説を読んでるみたいでした。
毎月新聞 (中公文庫)

毎月新聞 (中公文庫)

 ちょっと前に書評か雑誌のコラムかで読んで、気になってた本。ところで、この佐藤雅彦さんて、いったい何を中心にお仕事してる方なんでしょうか・・・。映像研究・・・?でも中を読んでみると「だんご三兄弟」を作ったひとりでもあるようだし、よくわからない・・・。で、中身はというと、気になること、感じたことを4ページくらいで考察する構成。たとえば表紙になってる「じゃないですか」を禁止する「じゃないですか禁止令」。その他、紅白に出場した和田アキ子を話題にするタイミングとか、電車が来る前に表示される「前の駅を出ました」の表示とか・・・。軽くておもしろいのでさくっと読めます。
哲学者というならず者がいる

哲学者というならず者がいる

 結構前に「○○博士」を意味する表記Dの前になぜ「Ph.」が入るのか?*1というのを何かで(忘れた)読んだことがあって、そこには「Ph=Philosophy(哲学)であって、その語源はラテン語の『知を愛する』から来ているから。博士になる者は、自分の専門分野だけでなく、隣接する分野、自分と反対側にある“知”そのものを愛していなくてはならない」というようなことを読んだんだけど、この本の最初の文章でそのことに触れていて、おぉーって思ったので記しておきます。この本はさすがに哲学中心に書かれているので、この話とは少し違う角度からなんだけど、「なぜ哲学という言葉を明治の知識人たちは“愛知”と訳さずに“哲学”と訳したのか?」というようなことが書かれています。この本によると、「哲学」では表せない一面が「愛知」にはあるとのこと。

 では、「愛知」には「哲学」によっては表せないどんな側面があるのだろうか?それは、何よりも「知を愛する」という態度である。「愛する」とは、好きでたまらないという意味ではない。「渇望する」という意味、「恋い焦がれる」という意味である。つまり、これはソクラテスによってはっきりした形を得たのだが、真理を他の何かのため(例えば社会的な力を得るため、金持ちになるため、幸福になるため)に求めるのではなく、真理であるゆえに求めるという態度である(p,9-10)。

 この部分を読んだだけで、5年来(確か大学院に入ったあたりだったからこのくらいだったと思う)の積もってたものが更新されたのでそれだけで読んでよかったな、と思いました。肝心の中身は、哲学的に考える、ということをテーマにしつつも、取り上げられているのが政治だったり大学教授という職業についてだったり、学生との関わりだったり「偶然」についてだったりするので、哲学本としてはすごく読みやすいほうだと思います。といってもこの中島先生、「社会問題には全く興味が無い」と何回も書いているのにたまに俗世のことで怒りが炸裂したりケンカしたりくよくよしたりしていて、すごく人間味あるなぁ、という感じ。あと、著者プロフィールを読んでて今思い出した。中島先生の『カントの人間学』を大学生のとき読んだんですが、これはすんごくわかりやすかった!両方おすすめです。

*1:Ph.D「=哲学博士」。どんな分野の博士もそうなる。