読了
- 作者: 北村薫
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『死因事典』は普通に思い浮かべる事典そのものという形(単語・意味のみ!の構成)ではないので、タイトルと装丁から受ける印象と内容が違うかも。何というか・・・死を見つめることは、「生」を感じようとする作業なんだな、というのが感想でした。作中の言葉を使うと『「死」は「生」の裏がえし。双子のかたわれ。生きている日々を裏側から見るようなものだ(p,6)」っていうところがぴったりくるかも。がんとか精神的なストレス、感染症、過労死、災害・・・と、死にまつわる歴史から最近のニュースまで(偏りはありつつも)網羅してあるので、すごく興味深く読めた。
桐野さんの本では『白蛇教異端審問』が初めて。小説家で、母でもある作者の多忙さががんがん伝わってくる内容だった・・・。印象的なのは、桐野さんが小説で参考にするため、裁判の傍聴に行くところ。人の秘密を知る罪悪感と、ディテールを創作しなくてはならない小説家としての敗北を感じつつ、
それでもなお「観察」を続けるのは、私の中に小説家としての義務感に裏打ちされた切実な欲望、一線を越えた人間を見たい、というものがあるからだ。違う世界に突入した人々の突入の瞬間を知りたい。違う世界はどんな様相で迫ってきたのかを聞きたい。ふと見回すと、傍聴人のいずれもが身を乗り出し、真実を探そうと被告人や証人の顔を躍起になって凝視している。(略)だが、場を支配するのは、「真実」を背負った一人の人間の存在だ。本人も背負った荷の中身を知ることはできない。にも拘わらず、下ろすことだけは絶対許されない。それが、一線を越えることなのだ(p,104)。
と書いてあって、自分の中では腑に落ちたというか、つかえがちょっと取れた気になった。あと面白かったのは、中国人は海外でもチャイナタウンを作るが、日本人は結婚して交わる(郷に入っては郷に従う)けれど、従うだけで同化はしない、したがって日系二世三世たちはアイデンティティに苦しむ・・・というところ。「こういう国民性では、スパイ小説はなかなか生まれない」って続くんですが、先日読んだ『スパイのためのハンドブック』でも、敵国のスパイになりすますために、言葉だけじゃなく身なり、習慣、会話まで自分のものにすると書いてあったので、確かに日本ではスパイは難しそうだなーと思った。地の自分を消すっていうのは頭の中ではできそうな気もするけど、なれたらなれたで今までの自分がいなくなっちゃったみたいに混乱しそうだ。